<クスピディフォリア(J.cuspidifolia)における稚樹開花>
この「種」はアルゼンティンから、ボリビアとパラグアイを抜け、ブラジルに亘って分布します。初めて出会ったのは、ボリビアとの国境に近いサルタ州、Oran近くの自生地でした。樹高は8~10mで、ミモシより一回り小さいとされています。
99年11月中旬(アルゼンティンの11月は日本の5月に相当)播種で翌年の10月末には開花を始めました。丸1年に満たぬ開花だったのです。その最小個体は、前年枝(茎)の長さが17cm、また実生35個体中で開花したのは25個体、実に71.4 %の開花株率で、ミモシ(最高で12.1%)とは雲泥の相違がありました。
ただ播種が遅れ、生育が進んでいないと開花はやはり無理です。上とは5旬遅れて2000年1月上旬に播種したものもあったのですが、同年10月からの開花株率は0%でした。しかしその多くが花芽分化だけはしていました。つまり樹体が小さく力がなかったので、幼い花芽(幼花穂)を発達・開花させるだけの余力がなかったのです。その最小個体は、新旧合わせた総茎長が僅か14 cmというサイズでした。クスピはこの小さいサイズで、花芽分化が可能なのです。
いずれにしてもクスピは、播種1年内外で茎長が20~30 cmに達していると、その大多数が開花するようにになります。並みのミモシでは開花まで10年といわれていますが、あの強力な伸長力を持つミモシの10年間がどんなものか…… 皆さんの背丈を遥かに超えた、どでかいサイズになっているはずです。それがクスピでは20~30 cmもあったらすむのです。大変な違いではありませんか。
その発育の経過を見ると、発芽した当初は、当然ながら1本立ちとなります。しかし翌春は、頂端から基部まで多くの腋芽がいっせいに伸びだして分枝し、中には双葉(子葉)の腋芽からの新梢に花穂が分化した個体もありました。上の写真は、旧葉(前年葉)が数枚残っていますが(古い茎は黄色っぽい色の部分です)、茎頂部より短い有葉の担花枝が何本も出て(族生して)開花し、下位からも新梢が何本も伸び出しています。前回のミモシフォリアの開花の姿と、ずいぶん違った姿にご注目ください。
このように本種は頂芽優勢性が脆弱でよく分枝し、花芽もできやすいのですが、幼苗時は力がないのでこれらの花穂、特に下位の新梢の花穂は発育途上で退化し、開花に至らないのが大半でした。また双葉の腋芽から萌出した新梢に花芽分化した個体が見られたことは、本種が木本でありながら、草本植物並みの(草花と同等の)稀有な性質を併せ持つことを示していました。
生長すると8~10mにも達する樹木からは、これは想像もつかない現象でした。
ただ残念ながら本種の耐寒性は、ミモシより遥かに劣るように観察されました。INTAの研究者たちはその後、ミモシ×クスピの種間雑種の獲得に成功していますが、さて、ミモシの血が入って耐寒性がどこまで改善されたでしょうか…… この耐寒性の解決こそが、本種の将来を決める最大の問題点のように私には思えます。
なお、その後再訪した自生地は皆伐が行われていました。その伐採地の切り株からクスピは、上の写真のように強力な伸長をしていました。草花としての性質を持ちながらも、ここではやはり樹木としての本性が露呈されていました。