<種間交雑育種――プベルラ・オキシフィラの場合(1)>インターネットで迷い込んだ浜名湖花博。そこで見たことも聞いたこともないハカランダの、種間交雑種と出会いました。
その交配組合わせはJ.puberula×J.carobaとありましたが、分類学上の記載やミズーリ植物園(Missouri Botanical Garden)の写真や線描画と照合すると、花粉親はこのJ.caroba種ではなく、J.oxyphyllaとすべきだと思われました。そこで導入・育成者のYM氏に確かめたところ、同氏もその方が正しいと肯定されました。従って上記の種間雑種はJ.puberula×J.caroba ではなく、J.puberula×J.oxyphyllaとすべきです。
06年5月11日、私は花空間けいはんなにYM氏を訪ね、そのご好意でこのJ.puberula×J.oxyphylla雑種(以下PO雑種)とその花粉親のJ.oxyphylla(以下オキシフィラ)そのものを各1株、入手することができました。
これからお話をしようとしているのは、このPO雑種とオキシフィラに潜む非常に大きな問題点と、その対極にある途轍もない将来に向けての可能性についてです。
■ クロロシスの問題このオキシフィラは樹高1.5mという矮性種で、近縁のJ.caroba、J.paucifoliataとともに次のような記載があります;
「草原の低木か多年草で、地上部は1〜2年生、地下に肥厚した根茎がある」
というのです。われわれがハカランダ、つまりミモシフォリアに抱いている概念からすると、俄かには信じられない表現です。
このハカランダの中でも1、2を争う矮小性は極めて魅力的で、何としても活用したいところですが、如何せんこの「種」には根に問題があるようで、葉にクロロシスを生じるという一大欠陥があり、それが原因でしょうか、生育は甚だ脆弱です。

左右両側はPO雑種(左が接木苗で右は原木)、中2つがオキシフィラで、これも左が接木苗で右が原木。
自根苗のオキシフィラ原木はクロロシスで黄緑色を呈していますが、
その直ぐ左の接木苗は完全とはいきませんが、大幅に葉緑が改善されています。

左と中央がオキシフィラの接木苗と原木。
右はPO雑種です。シーズンが進むと原木はこのようにメロメロになり、遂には枯死しましたが、
接木苗はPO雑種と同じ程度の緑を呈しており、簡単に枯れることはありません。
■ 花色の問題いまひとつの問題、それは花色です。オキシフィラ自体も、またプベルラとの雑種も、その花色は紫の濃淡で、あのミモシのラベンダーブルーとは大きく喰い違っています。多彩な色があるということは、園芸的には素晴らしいことですが、しかしハカランダというわれわれのイメージからすれば、やはりミモシやアクティにおけるラベンダーブルーの方に、軍配があがるのではないでしょうか。

PO雑種の花。ミモシやアクティと違って、赤味を帯びた花色です。

花冠の写真です。
左から右へ濃淡2種のPO雑種、次がオキシフィラ2列、最後がFPK3の順です。
PO系とミモシ・アクティ系では色調が大きく違っています。
さてこのような問題点を、どう解決していったらよいでしょうか。まずクロロシスについては;
(1)ミモシ台に接木をすることによって、回避することが可能だということが判りました。しかしこれでは本質的な解決というわけには参りません(上述の写真参照)。
(2)一方YM氏は上記のように、プベルバとの種間交雑でこの問題を解決されました。YM氏の表現を借りますと;
「オキシフィラは生育が概して緩慢で、軟弱な生長を示した。また個体による生育に差が激しく、順調に生育するものから殆ど挫止して生長しないものまで、大きな変異があるという問題もあった。一方プベルラは茎も太く直立し、暑さにも強く生育旺盛であった。
2000年9月に両種が同時に開花したので交配したところ、和合性があることが判った。現在育成中のものは、02年4月に交配したものであるが、交配親を吟味したため栽培面での育ちも申し分なく、挿木も可能である。両親種から窺がわれるように小型で咲き、また春秋開花する不時開花性も強いので、鉢花として高い利用価値がある」 …… としておられます。
私は交配によって、丈夫なオキシフィラが出来ないものかと考え、戻し交配(PO雑種×オキシフィラ)を試みましたが、その結果は写真のとおりの惨憺たる有様でした。オキシフィラそのものよりクロロシスは軽くはなったものの、とても戻し交配の積み重ねに、耐えられるようなものではありませんでした(注;戻し交配を積み重ねると、限りなくオキシフィラに近づけることができますが、同時にクロロシスも酷くなります)。

左右のミニプランターが「PO雑種×PO雑種」の実生です。
右側のプランターには事故で4個体の欠株が出ていますが、総て健全です。
これに対し、中央のそれは「PO雑種×オキシフィラ」の実生で、葉緑が薄くて枯死するものが多く、
やがて全滅してしまいました。

「PO雑種×PO雑種」実生の拡大写真。
F2世代に当たるので、かなり大きなバラツキ(遺伝的な分離)が見られる点にご注目ください。
その点では「PO雑種×PO雑種」は、遥かにマシでした。ですからこの後代実生の中から形態的にオキシフィラに近く、かつ丈夫な実生を選び出してその相互間に交配をする……この交配の繰り返しで限りなくオキシフィラに近い、丈夫な「モドキ」を作出することは可能だ、と判断しました。しかし、この系列全般を見渡した場合、私には遺伝的に抜きがたい蒲柳の素質がある、という印象を拭えませんでした。そこから完全に脱却するには、かなりの努力なり、交配の積み重ねが要るように思われます。
ですから観点をがらりと変えて、ミモシ・アクティ系列と交雑することによって、これらの丈夫さを取り込むという別法が考えられるわけです。
一方花色に関しては、その色素分析はなされていないようですが、その色調から判断してミモシとアクティのアントシアニンは青色系のdelphinidin系、これに対してPO雑種はピンク〜赤系のcyanidin系と思われます。
その遺伝は delphinidin > cyaniding とデルフィニジンが優性なので、後代に入りやすいことになります。そしてこれら両色素の違いが、いま1つの主働遺伝子によって決定されるとすると、ミモシ・アクティ系列×PO系列の交配で、F1 は総てデルフィニジン、またF2ではデルフィニジン:シアニジンが3:1の割合に分離することになるので、デルフィニジンの追求は割合に簡単に行えることになります。
その9 へ続きます。